はじめに
大きな瞳としわくちゃの顔、くるんと巻いた尻尾が特徴的なパグ。その愛らしい容姿と陽気な性格で、世界中の愛犬家から愛されている犬種です。しかし、パグは短頭種特有の健康リスクを抱えており、特に呼吸トラブルには細心の注意が必要です。本記事では、パグを家族に迎える前に知っておきたい飼い方の基本から、短頭種気道症候群などの重要な健康管理まで、詳しく解説します。
パグの基本データ
- 原産国: 中国
- 体高: 25〜28cm
- 適正体重: 6〜8kg
- 平均寿命: 12.6歳
- 被毛タイプ: スムースコート(短毛ダブルコート)
- 毛色: フォーン、シルバー、アプリコット、ブラック
パグの性格と特徴
明るく人懐っこい愛嬌の塊
パグは「コンパニオンドッグ」として改良されてきた犬種で、人との生活に最適化された性格を持っています。陽気で明るく、飼い主に対して深い愛情を示すため、初めて犬を飼う方にも適しています。特に家族全員に対してフレンドリーで、小さなお子様がいる家庭でも良好な関係を築けることが多いです。
甘えん坊で寂しがり屋
パグは非常に甘えん坊な性格で、飼い主のそばにいることを好みます。長時間の留守番は苦手で、分離不安を起こしやすい傾向があります。そのため、在宅勤務の方や家族の誰かが常に家にいる環境が理想的です。ただし、過度な甘やかしは依存心を強めるため、適度な距離感を保つことも大切です。
頑固でマイペースな一面も
愛らしい外見とは裏腹に、パグは意外と頑固でマイペースな性格を持っています。しつけの際には根気が必要で、特にトイレトレーニングには時間がかかることがあります。無理に従わせようとするのではなく、ポジティブな方法で褒めながら教えることが効果的です。
短頭種気道症候群(BOAS)とは
パグが抱える最大の健康リスク
パグを含む短頭種(鼻が短く顔が平たい犬種)が抱える最も深刻な健康問題が短頭種気道症候群(Brachycephalic Obstructive Airway Syndrome、略称BOAS)です。この症候群は、短頭種特有の頭蓋骨の形状により、気道が狭くなることで呼吸困難を引き起こします。
BOASの主な構造的異常
外鼻孔狭窄(がいびこうきょうさく)
鼻の穴が生まれつき狭く、空気の流入が制限される状態です。呼吸時に「ズーズー」「ブーブー」といった異常な音が聞こえます。
軟口蓋過長(なんこうがいかちょう)
のどの奥にある柔らかい部分(軟口蓋)が通常より長く、気道を塞いでしまいます。いびきや呼吸時の異常音の主な原因です。
喉頭虚脱(こうとうきょだつ)
喉頭の軟骨が弱くなり、呼吸時に気道が狭まる状態です。重症化すると呼吸困難や失神を引き起こします。
気管低形成(きかんていけいせい)
気管が生まれつき細く短い状態で、十分な空気を取り込めません。
BOASの症状と見極め方
- 異常な呼吸音: 「ズーズー」「ブーブー」「ゼーゼー」といった音
- 大きないびき: 寝ている時に激しいいびきをかく
- 運動後の異常: 散歩や遊びの後に極度に疲れる、失神する
- 口を開けたままの呼吸: 常に舌を出してハァハァしている
- チアノーゼ: 舌や歯茎が紫色になる(酸素不足のサイン)
- 嘔吐や吐き気: 食後や興奮時に吐きやすい
外科手術による治療
BOASの症状が重い場合は、軟口蓋切除術などの外科手術が推奨されます。この手術は1歳未満で実施することが理想的で、遅くても4歳までに行うことが推奨されています。6歳を超えると手術のリスクが高まるため、早期の診断と治療が重要です。ただし、外科治療の死亡率は3.2〜7.0%と報告されており、獣医師との十分な相談が必要です。
体重管理と肥満対策
パグは太りやすい体質
パグは食欲旺盛で太りやすい体質を持っています。適正体重は6〜8kgですが、食べ過ぎや運動不足ですぐに肥満になってしまいます。肥満は呼吸トラブルを悪化させる最大の要因です。首回りに脂肪がつくと気道がさらに狭くなり、BOASの症状が深刻化します。
適切な散歩量
パグには1回20〜30分の散歩を1日2回行うことが推奨されています。ただし、短頭種であるパグは激しい運動が苦手です。散歩のペースはゆっくりめに保ち、愛犬の様子を見ながら調整しましょう。呼吸が荒くなったり、疲れた様子が見られたらすぐに休憩を取ることが大切です。
フード選びのポイント
- 低脂質・低カロリー: 肥満予防のため、脂質控えめのフードを選ぶ
- 高タンパク質: 筋肉量を維持するため、良質なタンパク質が豊富なもの
- 小粒タイプ: パグの小さな口に合わせた食べやすいサイズ
- 関節サポート成分: グルコサミンやコンドロイチン配合のもの
定期的な肥満度チェック
月に1回は体重測定を行い、体型をチェックしましょう。肋骨に触れた時に骨が確認できる程度が理想的です。上から見た時にウエストのくびれが見える、横から見た時に腹部が引き締まっているかも確認ポイントです。
温度管理と熱中症対策
パグの適温は18〜27℃
短頭種であるパグは体温調節が非常に苦手です。鼻が短いため、パンティング(口を開けてハァハァする呼吸)による冷却効果が低く、熱中症のリスクが極めて高い犬種です。室温は常に18〜27℃を保つことが理想的で、特に夏場は22〜25℃(最高でも28℃まで)、冬場は20℃以上を維持しましょう。
エアコンはつけっぱなしが基本
パグを飼育する場合、夏場も冬場もエアコンはつけっぱなしが基本です。留守番中も必ずエアコンをつけ、室温を適切に保ちましょう。湿度も40〜60%に管理することで、愛犬の快適性がさらに向上します。電気代を気にして消してしまうと、命に関わる事態になりかねません。
散歩は早朝・夕方の涼しい時間のみ
夏場の散歩は、早朝6時前または夕方18時以降の涼しい時間帯に限定しましょう。日中の散歩は絶対に避けてください。アスファルトの温度が高い時間帯は肉球のやけどのリスクもあります。散歩前に地面を手で触って温度を確認する習慣をつけましょう。
熱中症の初期症状
⚠️ 以下の症状が見られたらすぐに体を冷やして動物病院へ!
- 激しいパンティング(呼吸が荒い)
- 大量のよだれ
- ぐったりして動かない
- 嘔吐や下痢
- 体が熱い
- 意識が朦朧としている
パグがなりやすい病気
1位:耳の病気(細菌性外耳炎)
パグの垂れ耳は通気性が悪く、湿気がこもりやすいため細菌性外耳炎を起こしやすい傾向があります。定期的な耳掃除と、耳の中が赤くなっていないか、異臭がしないかのチェックが重要です。
2位:皮膚の病気
肥満細胞腫やマラセチア性皮膚炎など、パグは皮膚トラブルを抱えやすい犬種です。特に顔のしわの間は湿気がこもりやすく、皮膚炎の温床になります。毎日しわの間を優しく拭き取り、清潔を保ちましょう。
3位:眼の病気(角膜炎)
パグの大きく突出した目は、外傷を受けやすく角膜炎を起こしやすい特徴があります。散歩中は草むらに顔を突っ込まないよう注意し、目やにが増えたり充血したりしていないか毎日チェックしましょう。
パグ脳炎(壊死性髄膜脳炎)
パグ脳炎は、パグ特有の遺伝性疾患で、脳に炎症が起こり神経症状を引き起こします。発症すると痙攣、旋回運動、性格の変化などの症状が現れ、多くの場合は予後不良です。現在のところ有効な治療法は確立されておらず、予防も困難な病気です。
飼育上の重要な注意点
過度な運動は避ける
パグは運動が大好きですが、呼吸器の問題から激しい運動や長時間の運動は避けるべきです。特に夏場は室内遊びを中心にし、無理な運動をさせないよう注意しましょう。
しわのケアは毎日
パグの顔のしわは毎日ケアが必要です。湿らせた柔らかい布でしわの間を優しく拭き、しっかり乾かしましょう。湿ったままにすると皮膚炎の原因になります。
定期的な健康診断
短頭種であるパグは、定期的な健康診断が特に重要です。最低でも年に1回、できれば年に2回は動物病院で健康チェックを受けましょう。呼吸の状態、体重、目や耳の状態などを専門家に診てもらうことで、病気の早期発見につながります。
よくある質問(Q&A)
Q1. パグの子犬を迎える適切な時期はいつですか?
A. パグの子犬は生後2〜3ヶ月が適切な迎え入れ時期です。この時期は社会化期にあたり、新しい環境に適応しやすい時期です。ただし、信頼できるブリーダーから、健康診断を受けた子犬を迎えることが重要です。特にBOASの症状がないか、呼吸音を確認しましょう。
Q2. パグのいびきは病気のサイン?
A. パグは短頭種特有の構造上、ほとんどの個体がいびきをかきます。ただし、いびきが以前より大きくなった、呼吸が苦しそう、日中も口を開けて呼吸しているなどの症状がある場合は、BOASの進行が疑われます。獣医師に相談し、必要に応じて治療を検討しましょう。
Q3. パグは留守番が苦手と聞きましたが、共働きでも飼えますか?
A. パグは寂しがり屋ですが、適切なトレーニングと環境を整えれば共働き家庭でも飼育可能です。ただし、長時間(8時間以上)の留守番は避け、可能であれば昼休みに帰宅するか、ペットシッターを利用するなどの工夫が必要です。また、留守番中のエアコン管理は必須です。
Q4. パグの抜け毛対策はどうすればいいですか?
A. パグは短毛ですがダブルコートのため、意外と抜け毛が多い犬種です。特に春と秋の換毛期は大量に抜けます。毎日のブラッシングで抜け毛を除去し、週に1〜2回のシャンプーで清潔を保ちましょう。ラバーブラシやファーミネーターなどの専用ブラシが効果的です。
Q5. パグの平均寿命は他の犬種より短いですか?
A. パグの平均寿命は12.6歳で、小型犬の平均(14〜15歳)と比べるとやや短い傾向にあります。これは短頭種特有の健康問題が影響しています。ただし、適切な体重管理、温度管理、定期的な健康診断を行うことで、健康寿命を延ばすことは十分可能です。実際に15歳以上生きるパグも少なくありません。
まとめ
パグは愛らしい外見と陽気な性格で、多くの人を魅了する素晴らしい犬種です。しかし、短頭種特有の健康リスク、特に呼吸トラブルには細心の注意が必要です。適切な体重管理、温度管理、定期的な健康診断を行い、愛犬の変化にいち早く気づける観察力を持つことが、パグとの幸せな生活の鍵となります。
BOASの症状が見られる場合は、早期に獣医師に相談し、必要に応じて外科治療も検討しましょう。パグの寿命は飼い主の日々のケアによって大きく変わります。正しい知識を持ち、愛情を持って接することで、パグは最高のパートナーになってくれるはずです。
参考文献
- アニコム損害保険株式会社「家庭どうぶつ白書2023」
- 日本獣医師会「短頭種気道症候群の診断と治療」
- 環境省「飼い主のためのペットフード・ガイドライン」
- 一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」
- 東京大学動物医療センター「短頭種の呼吸器疾患に関する研究」
📌 専門家への相談を推奨します
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個々の犬の健康状態や飼育環境によって最適な対応は異なります。パグの飼育に関して具体的な疑問や不安がある場合は、必ず獣医師やドッグトレーナーなどの専門家にご相談ください。特に呼吸トラブルや健康上の異変が見られた場合は、速やかに動物病院を受診してください。

