犬のガンの種類と早期発見ポイント|予防と治療方法

犬のケア
獣医師に健康診断を受ける柴犬
定期的な健康チェックがガンの早期発見につながります

はじめに

愛犬の死因の約半数を占めるガン(悪性腫瘍)。近年、犬の平均寿命が14.65歳まで延びたことに伴い、ガンの発生率も増加しています。7歳で10.1%、10歳では6頭のうち1頭にあたる17.5%がガンを発症しており、高齢になるほどリスクが高まります。しかし、ガンは早期発見できれば治癒や長期生存も十分可能な病気です。本記事では、犬がかかりやすいガンの種類と症状、早期発見のチェックポイント、予防方法、そして治療の選択肢について詳しく解説します。

📊 犬のガンの基本知識

犬のガン発生率と死亡率

  • 死亡率: 犬の死因の約50%(2頭に1頭)
  • 平均寿命: 14.65歳(2021年)
  • 年齢別発生率:
    • 7歳: 10.1%
    • 10歳: 17.5%(6頭に1頭)
  • 最も多いガン: 皮膚腫瘍(約30%)、乳腺腫瘍(約20%)

🐕 ガンになりやすい犬種

大型犬

  • ゴールデンレトリバー: 全犬種で最も発生率が高い(9.6%)
  • ラブラドールレトリバー: 血管肉腫、リンパ腫
  • シェットランドシープドッグ: 乳腺腫瘍、皮膚腫瘍

小型犬・中型犬

  • ミニチュアダックスフンド: 皮膚腫瘍
  • ウェルシュコーギーペンブローク: 肥満細胞腫
  • パグ: 肥満細胞腫、口腔内腫瘍
  • フレンチブルドッグ: 肥満細胞腫

※一般的に小型犬より大型犬の方がガンになりやすい傾向があります

🔍 犬に多いガンの種類と症状

1位:皮膚腫瘍(約30%)

📌 肥満細胞腫(ひまんさいぼうしゅ)

皮膚ガンの中で最も多く、犬にとっては悪性度が高い腫瘍です。

症状:

  • 皮膚表面のしこり・できもの(見た目は良性に見えることも)
  • 触ると急に大きくなる、赤くなる(ダリエ徴候
  • 脱毛、炎症、潰瘍
  • 嘔吐、下痢(ヒスタミン放出による)
  • 食欲不振、吐血、下血

好発部位: 胴体、四肢、会陰部

悪性度: グレードI〜III(IIIが最も悪性)

2位:乳腺腫瘍(約20%、未避妊メスは40%)

📌 乳腺腫瘍

未避妊のメス犬に多く、初回発情前の避妊手術でリスクを99.5%減少できます。

症状:

  • 乳腺(お腹の両脇)にしこり
  • 複数の乳腺にできることが多い
  • しこりが急に大きくなる
  • しこりの表面が赤く炎症を起こす、潰瘍
  • 乳頭からの分泌物

良性・悪性の割合: 約50%が悪性

転移先: 肺、リンパ節、肝臓

3位:リンパ腫(7〜24%)

📌 悪性リンパ腫

血液・リンパ系のガンで、発生率が高い悪性腫瘍です。

症状(多中心型・最も一般的):

  • 全身のリンパ節(顎の下、肩、膝の後ろ)が左右対称に腫れる
  • 元気・食欲の低下
  • 体重減少
  • 発熱
  • 嘔吐、下痢

その他のタイプ:

  • 消化器型: 嘔吐、下痢、血便、体重減少
  • 縦隔型: 咳、呼吸困難、チアノーゼ
  • 皮膚型: 皮膚の赤み、しこり、脱毛

発生率: 1万頭に1頭

治療しない場合の余命: 約1ヶ月

抗がん剤治療後: 平均1年、2年以上生存する子も

4位:血管肉腫(けっかんにくしゅ)

📌 血管肉腫

血管の内皮細胞から発生する悪性度の高い腫瘍。進行が速く、発見時には転移していることが多い。

症状:

  • 初期は無症状
  • お腹が膨れる(脾臓や肝臓の腫大)
  • 急な虚脱、失神
  • 歯茎が白い(貧血)
  • 腫瘍破裂→腹腔内出血→ショック

好発部位: 脾臓、肝臓、心臓、皮膚

好発犬種: ゴールデンレトリバー、ジャーマンシェパード

5位:口腔内腫瘍

📌 悪性黒色腫(メラノーマ)、扁平上皮がん

口の中にできるガン。悪性黒色腫は犬の口腔内腫瘍で最も多く、転移率が高い

症状:

  • 口臭が強くなる
  • よだれが増える、血が混じる
  • 食べづらそうにする
  • 口の中の黒いしこり(メラノーマ)
  • 歯茎の腫れ、出血
  • 顔の腫れ、変形

転移先: リンパ節、肺

その他の主なガン

  • 骨肉腫: 四肢の骨に発生、跛行(足を引きずる)、骨折
  • 肺がん: 咳、呼吸困難、運動不耐性
  • 膀胱がん: 血尿、頻尿、排尿困難
  • 肝臓がん: 食欲不振、嘔吐、黄疸、腹水
  • 精巣腫瘍: 精巣の腫大、陰睾(停留精巣)

🔔 早期発見のための10のチェックポイント

✅ 毎日のセルフチェック項目

1. しこり・腫れ・できもの

  • 全身を撫でて1cm以上のしこりがないか
  • しこりが急速に大きくなっていないか
  • しこりの形が不整形(いびつ)ではないか
  • しこりの表面が赤い、毛が抜けている
  • リンパ節の腫れ(顎下、肩、膝裏、鼠径部)

2. 元気・食欲・体重

  • 元気がない、寝ている時間が増えた
  • 食欲が落ちた、食べているのに痩せてきた
  • 2週間で10%以上の体重減少は要注意

3. 呼吸器症状

  • 慢性的な咳
  • 呼吸困難、ハァハァが止まらない
  • 鼻血、鼻詰まり
  • くしゃみが続く
  • いびきが急に大きくなった
  • 鳴き声が変わった

4. 消化器症状

  • 嘔吐、下痢が続く
  • 便秘が続く
  • 血便、黒い便(タール便)
  • お腹が膨れてきた

5. 泌尿器症状

  • 血尿
  • 頻尿(何度もトイレに行く)
  • 排尿困難(おしっこが出にくい)

6. 口腔内

  • 口臭が強くなった
  • よだれが増えた、血が混じる
  • 歯茎の出血、腫れ
  • 口の中のできもの、ただれ
  • 食べづらそう、片側だけで噛む

7. 皮膚

  • 皮膚の黒色・赤色の変色
  • ただれ、潰瘍
  • 治らない傷
  • 脱毛

8. 運動機能

  • 足を引きずる(跛行)
  • ふらつき、麻痺
  • 散歩を嫌がる、途中で座り込む
  • 階段や段差を避ける

9. 神経症状

  • けいれん発作
  • 意識がもうろうとする
  • 性格が変わった(攻撃的、無気力)

10. 目

  • 目の輝きがなくなった
  • 目が飛び出してきた
  • 充血、目やにが増えた

これらの症状が1つでも当てはまったら、早めに動物病院を受診しましょう。早期発見が治癒率を大きく左右します。

🛡️ ガンの予防方法

1. 避妊・去勢手術

🎯 効果絶大!

  • 初回発情前の避妊手術: 乳腺腫瘍のリスクを99.5%減少
  • 2回目の発情後: リスク減少効果は約26%に低下
  • 去勢手術: 精巣腫瘍、前立腺がんのリスクを100%予防
  • 推奨時期: 生後6〜12ヶ月(獣医師と相談)

2. 適正体重の維持

肥満は様々なガンのリスクを高めます。適正体重を維持することで、ガンだけでなく多くの疾患を予防できます。

  • 栄養バランスの取れた食事
  • 適切な運動(散歩、遊び)
  • おやつは1日の総カロリーの10%以内
  • 定期的な体重測定

3. 抗酸化作用のある食事

🥦 ガン予防に効果的な食材

  • アブラナ科の野菜: ブロッコリー、キャベツ、カリフラワー(がん抑制作用)
  • きのこ類: しいたけ(免疫向上)、えのき(がん増殖抑制)
  • にんじん: βカロテン豊富
  • かぼちゃ: 抗酸化作用
  • さつまいも: 食物繊維、ビタミン
  • ブルーベリー: ポリフェノール

※野菜や果物は茹でて細かく刻み、フードにトッピング(全体の10〜20%程度)

4. 定期的な健康診断

  • 7歳未満: 年1回の健康診断
  • 7歳以上: 年2回の健康診断
  • 血液検査、尿検査、レントゲン、超音波検査
  • 腫瘍マーカー検査(Nu.Q® Vet Cancer Testなど)

5. 生活環境の改善

  • 受動喫煙を避ける: タバコの煙はガンのリスクを高める
  • 化学物質を避ける: 農薬、除草剤、有害な洗剤
  • 紫外線対策: 日差しの強い時間の散歩を避ける(皮膚がんリスク)
  • ストレス軽減: 適度な運動、十分な睡眠、愛情を持って接する

💊 ガンの治療方法

ガンの三大治療法

1⃣ 外科手術

ガンを外科的に切除する方法。転移がなく、完全切除できれば最も確実な治療法です。

メリット:

  • 腫瘍を直接取り除ける
  • 完全切除できれば治癒の可能性が高い
  • 病理検査で確定診断ができる

デメリット:

  • 全身麻酔のリスク(特に高齢犬)
  • 手術できない部位もある(脳、心臓など)
  • 転移している場合は効果が限定的

費用目安: 10万〜30万円(腫瘍の大きさ・部位により変動)

2⃣ 化学療法(抗がん剤治療)

注射や内服で全身に薬を投与し、がん細胞の増殖を抑える治療法。

適している状況:

  • リンパ腫など全身に広がるガン
  • 手術後の再発予防
  • 転移が認められる場合
  • 手術できない部位のガン

メリット:

  • 全身に効果が及ぶ
  • 手術不要
  • QOL(生活の質)を保ちやすい

デメリット・副作用:

  • 食欲不振、嘔吐、下痢(人間より軽度)
  • 白血球減少(感染リスク)
  • 脱毛(犬ではまれ)
  • 定期的な通院が必要

費用目安: 月5万〜10万円(数ヶ月〜1年)

3⃣ 放射線治療

ガンのある部位に放射線を照射し、がん細胞の成長を抑制・縮小させる治療法。

適している状況:

  • 手術できない部位のガン(鼻腔、脳腫瘍など)
  • 手術後の再発予防
  • 痛みの緩和(骨肉腫など)

メリット:

  • 局所的に高い効果
  • 外科手術より体への負担が少ない

デメリット・副作用:

  • 照射部位の皮膚炎、脱毛
  • 数週間の通院が必要(麻酔が必要)
  • 実施できる施設が限られる

費用目安: 50万〜100万円(総額)、1回3万〜5万円

その他の治療・緩和ケア

  • 免疫療法: 自身の免疫力を高めてガンと戦う
  • 分子標的薬: 特定のがん細胞だけを攻撃
  • 緩和ケア: 痛みの管理、QOLの向上
  • 栄養管理: 高タンパク・低炭水化物の食事
  • サプリメント: 免疫サポート(獣医師と相談)

💡 治療を選択する際のポイント

考慮すべき要素

  • ガンの種類・ステージ: 早期 vs 進行期、転移の有無
  • 愛犬の年齢・体力: 高齢犬は治療に耐えられるか
  • QOL(生活の質): 延命より苦痛を減らすことを優先するか
  • 経済的負担: 治療費の総額を把握
  • 飼い主の通院可能性: 定期的な通院ができるか
  • セカンドオピニオン: 複数の獣医師の意見を聞く

「治療しない」という選択肢も

高齢や体力的に治療に耐えられない、QOLを優先したいなど、治療しない選択も愛情ある決断です。緩和ケアで痛みを和らげ、残された時間を穏やかに過ごすことも大切な選択肢です。

よくある質問(Q&A)

Q1. ガンは遺伝しますか?子犬を迎える際に注意すべきことは?

A. ガンには遺伝的要因があると考えられています。特にゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバーなどは遺伝的にガン発生率が高いことがわかっています。子犬を迎える際は、親犬や兄弟犬のガン発症歴を確認し、信頼できるブリーダーから迎えることが重要です。ただし、遺伝的素因があってもすべての犬がガンになるわけではなく、適切な予防と健康管理でリスクを下げることができます。

Q2. しこりを見つけましたが、すぐに病院に行くべきですか?

A. はい、1cm以上のしこりを見つけたら早めに受診しましょう。すべてのしこりが悪性とは限りませんが(良性の脂肪腫なども多い)、素人判断は危険です。特に以下の場合はすぐに受診を:
① しこりが急速に大きくなる
② しこりの形が不整形
③ 表面が赤く炎症を起こしている
④ しこりが硬く、動かない
⑤ 潰瘍や出血がある
早期発見・早期治療が予後を大きく左右します。

Q3. 血液検査でガンは分かりますか?

A. 通常の血液検査ではガンを直接発見することはできません。血液検査では白血球の増加や貧血などの異常が見られることがありますが、これはガン特有のものではありません。ガンの診断には、画像検査(レントゲン、超音波、CT、MRI)や細胞診・病理検査が必要です。最近では腫瘍マーカー検査(Nu.Q® Vet Cancer Test)も利用可能で、スクリーニングに有用ですが、確定診断には画像検査や生検が必要です。

Q4. 抗がん剤治療は犬にとって辛い治療ですか?

A. 犬の抗がん剤治療は、人間よりも副作用が軽度です。人間では脱毛や激しい吐き気が問題になりますが、犬では脱毛はまれで、吐き気や下痢も軽度のことが多いです。これは、犬の抗がん剤治療が「QOLを維持しながら延命する」ことを目的としているため、人間より低用量で行われるからです。リンパ腫の場合、治療なしでは平均1ヶ月の余命ですが、抗がん剤治療で平均1年、2年以上元気に過ごせる子もいます。

Q5. 7歳を超えたら必ずガン検診を受けるべきですか?

A. はい、7歳以上の犬は年2回の健康診断を強く推奨します。7歳で10.1%、10歳では17.5%がガンを発症しており、高齢になるほどリスクが急増します。健康診断では血液検査、尿検査、レントゲン、超音波検査を行い、体内の異常を早期に発見できます。特にガンになりやすい犬種(ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバーなど)や、しこりがある、体重が減ってきたなどの症状がある場合は、積極的に検査を受けましょう。

まとめ

犬のガンは死因の約半数を占める深刻な病気ですが、早期発見と適切な治療で治癒や長期生存も十分可能です。日々のスキンシップで全身をチェックし、1cm以上のしこりや体調の変化に気づいたらすぐに動物病院を受診しましょう。

予防の3本柱:

  • 避妊・去勢手術(特に初回発情前)
  • 適正体重の維持と抗酸化食品の摂取
  • 定期的な健康診断(7歳以上は年2回)

ガンと診断されても、手術、抗がん剤、放射線治療など様々な選択肢があります。愛犬の年齢、体力、QOLを考慮し、獣医師とよく相談して最善の治療方針を決めましょう。愛犬との限られた時間を大切に、後悔のない選択をしてください。

参考文献

  • 日本獣医がん学会「犬の腫瘍性疾患診療ガイドライン」
  • 公益社団法人日本獣医師会「犬のがん診療指針」
  • 一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査2021」
  • 日本小動物がんセンター「犬の悪性腫瘍統計データ」
  • 環境省「飼い主のための動物の健康管理ガイドライン」

📌 専門家への相談を推奨します

本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個々の犬の健康状態や病状によって最適な対応は異なります。愛犬の健康やガンに関して具体的な疑問や不安がある場合は、必ず獣医師にご相談ください。特にしこりを見つけた場合、体調に異変が見られた場合は、速やかに動物病院を受診してください。ガン治療の選択に迷う場合は、セカンドオピニオンを受けることも検討しましょう。

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