🏥 犬のクッシング症候群とは
犬のクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)は、副腎から分泌されるコルチゾールというホルモンが過剰になることで発症する内分泌疾患です。中高齢犬(7歳以上)に多く見られ、プードル、ダックスフンド、ビーグル、シーズーなどの犬種で発症リスクが高いとされています。
クッシング症候群は、生命を直接脅かすことは少ないものの、適切な治療を行わないと糖尿病や高血圧、血栓塞栓症などの深刻な合併症を引き起こす可能性があります。早期発見と適切な治療・管理により、愛犬の生活の質を維持しながら長く過ごすことが可能です。
💡 知っておきたいポイント
クッシング症候群は「副腎皮質機能亢進症」とも呼ばれ、約85%は下垂体腫瘍、約15%は副腎腫瘍が原因です。また、長期間のステロイド薬投与による「医原性クッシング症候群」も存在します。
🔬 クッシング症候群の原因
クッシング症候群の発症原因は大きく3つに分類されます。
| 原因タイプ | 発症割合 | 特徴 |
|---|---|---|
| 下垂体依存性 | 約85% | 脳の下垂体に良性腫瘍ができ、副腎を刺激するホルモン(ACTH)が過剰分泌される |
| 副腎腫瘍性 | 約15% | 副腎そのものに腫瘍ができ、コルチゾールが過剰分泌される(良性・悪性両方) |
| 医原性 | 稀 | アレルギーや自己免疫疾患の治療でステロイド薬を長期投与した結果発症 |
🩺 クッシング症候群の症状チェックリスト
クッシング症候群は緩やかに進行するため、飼い主さんが「老化による変化」と見過ごしてしまうことがあります。以下の症状に複数当てはまる場合は、獣医師の診察を受けることをおすすめします。
🔍 初期~中期症状
- 多飲多尿:水をたくさん飲み、薄い尿を大量にする(95%以上で見られる)
- 多食・食欲亢進:常にお腹を空かせているように見える
- 体重増加・肥満傾向:食事量は変えていないのに太る
- 腹部膨満(ポットベリー):お腹がぽっこりと膨らむ
- 元気の低下:散歩を嫌がる、遊ばなくなる
- パンティング(喘ぎ呼吸):暑くもないのに舌を出して呼吸する
🔍 進行期症状
- 左右対称性の脱毛:胴体や尾、後肢の脱毛(顔や四肢の先端は残る)
- 皮膚の菲薄化:皮膚が薄くなり血管が透けて見える
- 色素沈着:皮膚が黒ずむ
- 皮膚の石灰化:皮膚に固いしこりができる(石灰沈着症)
- 筋力低下:後ろ足の筋肉が落ち、歩行がふらつく
- 肝臓肥大:お腹の膨らみがさらに目立つ
- 膀胱炎・皮膚感染症:免疫力低下により感染症にかかりやすい
⚠️ 注意が必要な合併症
クッシング症候群を放置すると、糖尿病、高血圧、血栓塞栓症、心不全などの重篤な合併症を引き起こすリスクが高まります。「最近、水をよく飲むようになった」「お腹が出てきた」といった小さな変化も見逃さないようにしましょう。
🔬 診断方法と検査プロセス
クッシング症候群の診断は、臨床症状だけでは確定できません。獣医師は以下のような段階的な検査を行います。
📋 診断の流れ
ステップ1:問診と身体検査
飼い主さんから症状の経過や生活環境を詳しく聞き取り、身体検査で特徴的な症状(腹部膨満、脱毛、皮膚の変化など)を確認します。
ステップ2:血液検査・尿検査
一般的な血液検査で、肝酵素(ALP、ALT)の上昇、高血糖、高コレステロール血症、低比重尿などを確認します。クッシング症候群では約90%の症例でALP(アルカリホスファターゼ)が上昇します。
ステップ3:ホルモン検査
クッシング症候群の確定診断には、以下のホルモン検査が用いられます。
| 検査名 | 方法 | 特徴 |
|---|---|---|
| ACTH刺激試験 | ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を注射し、前後の血中コルチゾール値を測定 | 感度約85~95%、治療効果の判定にも使用 |
| 低用量デキサメタゾン抑制試験(LDDST) | デキサメタゾンを注射し、4時間後・8時間後のコルチゾール値を測定 | 感度約95%、下垂体性と副腎性の鑑別も可能 |
| 尿中コルチゾール/クレアチニン比(UCCR) | 自宅で採取した尿を使用 | スクリーニング検査として有用、ストレスの影響を受けにくい |
ステップ4:画像診断
超音波検査やCT/MRI検査により、副腎の大きさや形、腫瘍の有無を確認します。下垂体性と副腎性の鑑別、手術適応の判断にも重要です。
💊 治療方法とホルモン管理
クッシング症候群の治療は、原因(下垂体性・副腎性・医原性)や病状の進行度によって異なります。
🏥 内科療法(薬物治療)
下垂体性クッシング症候群や手術が困難な副腎腫瘍の場合は、内科療法が第一選択となります。
トリロスタン(アドレスタン®)
現在、日本で最も一般的に使用されるクッシング症候群治療薬です。副腎でのコルチゾール合成を阻害することで、過剰なホルモン分泌を抑えます。
💊 トリロスタンの基本情報
- 投与量:体重1kgあたり1~3mg、1日1~2回経口投与
- 投与タイミング:食事と一緒に投与(吸収率向上のため)
- 効果発現:投与開始後1~2週間で症状改善が見られることが多い
- 治療期間:生涯継続が基本
トリロスタンの副作用と対策
トリロスタンは比較的安全な薬剤ですが、以下の副作用に注意が必要です。
⚠️ 主な副作用
- 消化器症状:食欲不振、嘔吐、下痢(最も多い副作用)
- 元気消失・倦怠感:活動性の低下
- 副腎不全:極めて稀だが、過剰投与により副腎機能が極端に低下
- 電解質異常:低ナトリウム血症、高カリウム血症
- 腎機能への影響:既存の腎臓病が悪化する可能性
副作用が見られた場合は、投与を一時中止し、すぐに獣医師に連絡してください。多くの場合、用量調整により副作用を軽減できます。
ミトタン(過去に使用された薬剤)
ミトタンは副腎の細胞を破壊する薬剤で、30年以上前から使用されてきました。現在は副作用のリスク(副腎壊死、重篤な副作用)のため、トリロスタンが使用できない場合を除き、あまり使用されません。
🔪 外科療法(手術)
副腎腫瘍が片側にある場合、外科的に摘出することで完治が期待できます。ただし、手術にはリスクも伴うため、腫瘍の位置、大きさ、転移の有無、犬の全身状態を総合的に判断して適応を決定します。
🚫 医原性クッシング症候群の治療
ステロイド薬の長期投与が原因の場合は、獣医師の指導のもと徐々に減量・中止します。急な中止は危険なため、必ず獣医師の指示に従ってください。
📊 定期検査とモニタリング
クッシング症候群の治療は、定期的な検査による用量調整が不可欠です。
| 時期 | 検査内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 投与開始後1~2週間 | ACTH刺激試験、血液検査 | 初期効果の確認、副作用のチェック |
| 投与開始後4~6週間 | ACTH刺激試験、血液検査 | 用量が適切か評価、必要に応じて調整 |
| 投与開始後3ヶ月 | ACTH刺激試験、尿検査、血液検査 | 治療効果の総合評価 |
| その後6ヶ月ごと | ACTH刺激試験、血液検査、超音波検査 | 長期的な効果と副作用のモニタリング |
⚠️ 定期検査を欠かさない理由
トリロスタンの効果は個体差が大きく、同じ用量でも効きすぎたり効かなかったりします。定期的なホルモン検査により、愛犬に最適な用量を維持することが重要です。検査費用は1回あたり約15,000~25,000円程度です。
🍽️ 食事管理と日常ケア
薬物療法と並行して、日常の食事管理や生活習慣の改善もクッシング症候群の管理において重要です。
🥗 食事管理の4つのポイント
- 低脂肪・高繊維食:膵炎予防のため脂肪分を10%以下に制限、繊維質で満腹感を維持
- 良質なタンパク質:筋肉量維持のため、消化吸収の良い動物性タンパク質を適量摂取
- 血糖値管理:高GI値の食材(白米、小麦粉など)を避け、低GI値の食材を選ぶ
- 低ナトリウム:高血圧予防のため、塩分を控える
避けるべき食材
高脂肪食品(揚げ物、脂身の多い肉、チーズ)、高炭水化物食品(パン、白米、じゃがいも)、高ナトリウム食品(人間用の加工食品、塩味のおやつ)
おすすめの食材
鶏ささみ、白身魚、豆腐、ブロッコリー、キャベツ、さつまいも(少量)、玄米(少量)
🐾 日常生活での注意点
- 水分補給:多飲多尿の症状があるため、新鮮な水を常に用意する
- 適度な運動:筋力低下を防ぐため、無理のない範囲で毎日散歩を続ける
- 皮膚ケア:皮膚が薄く感染しやすいため、清潔を保ち、傷や湿疹に注意する
- 体重管理:定期的に体重を測定し、肥満を予防する
- トイレ環境:尿量が増えるため、トイレシートをこまめに交換する
- ストレス管理:穏やかな生活環境を維持し、過度なストレスを避ける
📈 予後と長期管理
クッシング症候群は完治が難しい病気ですが、適切な治療と管理により、多くの犬が良好な生活の質(QOL)を維持しながら数年以上元気に過ごせます。
✨ 治療による改善効果
- 多飲多尿:治療開始後1~2週間で改善が見られることが多い
- 食欲:1~2週間で正常化
- 元気・活動性:1ヶ月程度で改善
- 脱毛・皮膚症状:3~6ヶ月かけて徐々に改善
- 筋力:数ヶ月かけて徐々に回復
📊 予後に影響する因子
| 予後良好な因子 | 予後不良な因子 |
|---|---|
| 早期発見・早期治療 | 診断が遅れ、合併症が進行している |
| 下垂体性クッシング症候群 | 悪性の副腎腫瘍 |
| 薬剤に良好な反応 | 副作用で治療継続が困難 |
| 定期検査を継続 | 治療の中断・用量管理の不備 |
| 合併症がない、または軽度 | 糖尿病、血栓塞栓症などの重篤な合併症 |
💡 生存期間の目安
トリロスタンで治療を受けた犬の平均生存期間は、診断後約2~3年(約500~900日)とされています。ただし、これは統計的な数値であり、適切な管理により5年以上元気に過ごす犬も少なくありません。
❓ よくある質問(FAQ)
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🏥 獣医師に相談しましょう
クッシング症候群は専門的な診断と治療が必要な疾患です。愛犬に気になる症状がある場合は、早めに動物病院を受診してください。
定期的な検査とホルモン管理により、愛犬の生活の質を維持しながら、長く健やかに過ごすことができます。
📚 参考文献・出典
- 犬のクッシング症候群について|原因・診断・治療法をわかりやすく解説 – るあな動物病院
- 愛犬のお腹が膨らんでる?|クッシング症候群の症状と治療法 – リアン動物病院
- 犬のクッシング症候群の原因、症状、診断、治療法について解説 – 桑原動物病院
- 犬のクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)|多飲多尿・食欲亢進 – 八幡南動物病院
- クッシング症候群 – めぐり動物病院 元代々木
- 【香芝市近隣の飼い主様へ】犬のクッシング症候群の初期症状とは – はなさく動物病院
- 【犬のクッシング症候群 】自己診断と当院の治療、家庭での過ごしかた – Kinswith Vet
- 【獣医師監修】犬のクッシング症候群とは?症状・原因・治療法 – VetzPetz
- トリロスタンとは? – OCTAGONCHEM
- トリロスタン錠10mg「あすか」 – 動物用医薬品等データベース
- トリロスタン(デソパン)– 内分泌疾患治療薬 – 神戸きしだクリニック
- ホルモンの病気 – 埼玉動物医療センター
- 犬のクッシング症候群とは?|症状・原因・治療法・食事管理 – アイ動物クリニック
- 【第2回】犬のクッシング症候群の治療と生活ケア – 国分寺ハート動物病院
- 犬のクッシング症候群—原因、症状、治療、予後まで獣医師が解説 – 港区メディカルペコ

