愛犬が水をよく飲むようになった、おしっこの量が増えた、食べているのに痩せてきた——。これらは犬の糖尿病の初期症状かもしれません。糖尿病は犬にとって身近な疾患であり、7〜9歳のシニア犬に多く見られます。完治は困難ですが、適切なインスリン治療と食事管理によって、症状をコントロールし、愛犬の生活の質を維持することが可能です。本記事では、犬の糖尿病の症状、診断方法、インスリン投与の実際、食事療法、日常管理のポイントを獣医学的根拠に基づいて詳しく解説します。
📋 目次
🔬 犬の糖尿病とは?種類と発症メカニズム
糖尿病は、血液中の糖(グルコース)の濃度が異常に高くなる病気です。通常、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが、血液中の糖を細胞内に取り込み、エネルギー源として利用させます。しかし、インスリンの分泌不足や機能不全により、糖が細胞に取り込まれず血液中に溜まってしまう状態が糖尿病です。
🧬 犬の糖尿病の種類
📌 Ⅰ型糖尿病(インスリン依存性)
犬の糖尿病の大部分はⅠ型です。膵臓のインスリン分泌細胞が破壊され、インスリンがほとんど分泌されなくなります。原因は遺伝、年齢、膵炎、薬剤などが挙げられます。生涯にわたるインスリン投与が必須となります。(うたづ動物病院)
📌 Ⅱ型糖尿病(インスリン非依存性)
犬では非常にまれです。インスリンは分泌されるものの、細胞がインスリンに反応しにくくなる(インスリン抵抗性)状態です。肥満が主な原因とされています。
🩺 初期症状と診断方法
⚠️ 飼い主が気づきやすい初期症状
糖尿病の初期症状は「多飲多尿」「多食」「体重減少」が3大サインです。(茶屋ヶ坂動物病院)
| 症状 | 詳細 |
|---|---|
| 多飲(ポリディプシア) | いつもより水をたくさん飲む。水を飲む回数が増える |
| 多尿(ポリユリア) | おしっこの量・回数が増える。色が薄くなる |
| 多食(ポリファジア) | 食欲が異常に増し、常に食べたがる |
| 体重減少 | 食べているのに痩せてくる |
| 毛艶の悪化 | 被毛がパサパサになり、艶がなくなる |
| 白内障 | 急速に目が白く濁る(犬の糖尿病の代表的合併症) |
🔍 診断方法
糖尿病の診断は血液検査と尿検査によって行われます。(サーカス動物病院)
- 血液検査: 空腹時血糖値が200mg/dL以上で糖尿病が強く疑われる
- 尿検査: 尿中に糖が検出される(尿糖陽性)
- 糖化アルブミン(フルクトサミン): 過去1〜2週間の平均血糖値を反映
⚠️ 注意点
犬は興奮やストレスで一時的に血糖値が上昇することがあります(ストレス性高血糖)。そのため、1回の検査だけでなく、複数回の検査と尿検査を組み合わせて総合的に判断します。
📊 なりやすい犬種・年齢・性別
🐕 好発犬種
遺伝的に糖尿病になりやすい犬種があります。(ミネルバ動物病院)
💡 好発犬種
- トイ・プードル
- ミニチュア・ダックスフンド
- ミニチュア・シュナウザー
- ビーグル
- ゴールデンレトリバー
- キースホンド(若齢発症のリスクあり)
- テリア種(ジャックラッセルテリアなど)
🎂 好発年齢
糖尿病の発症ピークは7〜9歳の中高齢犬です。ただし、若齢(2〜4ヶ月齢)での発症もまれに見られます。(アニコム損保)
⚥ 性別
メス犬の発症率はオス犬の約2倍です。特に未避妊のメス犬は、発情期や妊娠に伴うホルモン変化により糖尿病のリスクが高まります。(ヒルズ)
💉 インスリン治療の実際:投与方法と頻度
犬の糖尿病治療の基本はインスリン注射です。経口薬(飲み薬)は犬には効果がないため、皮下注射でインスリンを投与します。
📅 投与頻度と時間
💡 基本的な投与スケジュール
- 1日2回投与: 12時間おき(例:朝8時・夜8時)
- 1日1回投与: 24時間おき(犬種や使用インスリンによる)
- 食事中または食後すぐに投与するのが基本
一般的に使用されるプロジンク®というインスリン製剤は、1日1回または1日2回投与が可能です。初回推奨投与量は体重1kgあたり0.5〜1.0IUです。(動物用医薬品等データベース)
🎯 投与方法(自宅での注射)
- Step 1: インスリンの準備
冷蔵庫から取り出し、軽く転がして混ぜる(激しく振らない) - Step 2: 注射器に吸引
U-40専用シリンジを使用し、指示された量を吸引 - Step 3: 注射部位の選定
首の後ろ〜背中の皮膚をつまみ、皮下に注射 - Step 4: 注射後の確認
注射部位をもまず、そのまま離す
⚠️ 注射時の注意点
- 食事を食べなかった場合、インスリン投与量を減らすか獣医師に相談
- 投与量や時間を自己判断で変更しない
- 注射部位を毎回変える(同じ場所に連続投与しない)
- 低血糖症状(ぐったり、痙攣)が出たらすぐ獣医師に連絡
📈 血糖値モニタリング
治療開始後は、血糖値曲線(血糖値の日内変動)を作成し、インスリンの適量を決定します。通常、朝の注射前から夜の注射前まで2時間ごとに血糖値を測定します。安定したら1〜2ヶ月に1回の定期検査でモニタリングを継続します。(HugQ)
🍽️ 食事管理と療法食の選び方
糖尿病の食事療法で最も重要なのは、毎日決まった時間に決まった量の食事を与えることです。食事の量や内容、時間が不規則だと、血糖コントロールが不安定になります。(アニポス)
🥗 糖尿病用療法食の特徴
💡 療法食の特徴
- 高食物繊維: 血糖値の急上昇を抑える(不溶性+水溶性を調整配合)
- 低脂肪・高タンパク: 膵臓への負担軽減、筋肉量維持
- 低GI炭水化物: 玄米、大麦、イモ類など吸収が緩やか
- 複合炭水化物: 消化スピードが異なる炭水化物を組み合わせ
🏆 代表的な療法食
- ロイヤルカナン 糖コントロール: 犬用糖尿病療法食の定番
- ヒルズ w/d: 食物繊維強化、体重管理にも対応
- VetSolution 糖尿病サポート: グレインフリー、血糖上昇を穏やかに
- G.A.N.コントロール: 炭水化物・糖分を少なく設計
🚫 避けるべき食材
⚠️ NGな食材
- 単糖類・二糖類: 白砂糖、果糖、乳糖(急速に血糖値上昇)
- 高脂肪食: 膵炎のリスクを高める
- おやつ・人間の食べ物: 血糖コントロールを乱す
- 不規則な食事: 食事時間・量のバラつき
※療法食を好まない場合は、獣医師と相談の上、成犬・老犬用の高品質フードで代用することもあります。ただし、血糖値が安定しない場合は療法食への変更が推奨されます。(withペティ)
📝 日常管理のポイントと注意点
✅ 日常管理の5つの柱
- 規則正しい生活リズム: 食事・インスリン投与・運動を毎日同じ時間に
- 適度な運動: 毎日同じペースの散歩で血糖値を安定させる(激しい運動は避ける)
- 体重管理: 定期的に体重測定し、肥満を防ぐ
- 飲水量・尿量の記録: 異常があればすぐ獣医師に報告
- 定期的な受診: 最初は1〜2週に1回、安定したら1〜2ヶ月に1回
🚨 緊急時のサイン(低血糖症状)
インスリンの過剰投与や食事不足により、低血糖を起こすことがあります。以下の症状が見られたらすぐに対処が必要です。
⚠️ 低血糖の症状
- ぐったりして元気がない
- ふらつき、よろめき
- 痙攣、意識障害
- 震え、冷や汗
💡 応急処置
ガムシロップや砂糖水を口の中(歯茎)に塗り、すぐに動物病院へ連絡してください。意識がない場合は無理に飲ませず、すぐ受診します。
⚕️ 合併症と予後:余命と生存期間
🔴 主な合併症
| 合併症 | 症状・影響 |
|---|---|
| 白内障 | 急速に進行し、目が白く濁る。犬の糖尿病で最も多い合併症 |
| 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA) | 血液が酸性に傾き、嘔吐、食欲不振、脱水、甘酸っぱい口臭。命に関わる緊急状態 |
| 腎臓病 | 慢性腎不全の進行 |
| 膀胱炎・皮膚炎 | 細菌感染が起こりやすくなる |
| 子宮蓄膿症 | 未避妊のメス犬に発症リスクあり |
(永原動物病院) によると、糖尿病性ケトアシドーシスは死亡率が約30%と非常に高く、早急な入院治療が必要です。
⏳ 予後と余命
適切に管理された場合、糖尿病診断後の生存期間の中央値は約2.6年(964日)とされています。ただし、これは個体差が大きく、数ヶ月で亡くなるケースから8年以上生存するケースまで幅があります。(PetsCare.com)
💡 長寿の鍵
- 血糖コントロール: 適切なインスリン投与と食事管理
- 安定した生活リズム: 毎日同じルーティンを守る
- 定期的な検査: 合併症の早期発見
- 合併症の予防: 白内障、腎不全、感染症への対策
※糖尿病そのもので死亡することは少なく、多くは合併症やケトアシドーシスが原因となります。早期発見と適切な管理が予後を大きく左右します。(スケアクロウ)
✅ まとめ
- 犬の糖尿病の初期症状は多飲多尿・多食・体重減少
- 診断は血液検査(血糖値200mg/dL以上)と尿検査(尿糖陽性)で行う
- 7〜9歳の中高齢犬、特にメス犬の発症率が高い
- 治療の基本は1日1〜2回のインスリン皮下注射
- 食事は毎日決まった時間・量で、高食物繊維・低脂肪の療法食が推奨
- 規則正しい生活リズム、適度な運動、定期検査が重要
- 低血糖症状(ぐったり、痙攣)が出たらガムシロップを塗りすぐ受診
- 合併症(白内障、ケトアシドーシス)を予防すれば予後は改善
- 適切管理で平均2.6年、長ければ8年以上生存可能
⚠️ 必ず獣医師の指導のもとで治療を行ってください
犬の糖尿病は、生涯にわたる管理が必要な疾患です。インスリンの投与量や食事内容は、愛犬の状態によって異なります。本記事の情報を参考にしつつも、自己判断でインスリン量を変更したり、治療を中断したりすることは絶対に避けてください。治療開始後も定期的に動物病院を受診し、血糖値のモニタリングと獣医師の指導を受けることが、愛犬の健康維持と長寿の鍵となります。少しでも異変を感じたら、すぐに動物病院に相談しましょう。
📚 参考文献
- 犬の糖尿病かも?と思ったら。チェックしたい初期症状とは? – POCHI
- 犬の糖尿病の症状や原因は?治療法や予防法など獣医師が徹底解説 – 茶屋ヶ坂動物病院
- 犬の糖尿病を徹底解説!症状、原因、治療法、予防法をチェック – 池田動物病院
- 犬の糖尿病を早期発見!犬の健康を守るために飼い主様ができること – サーカス動物病院
- 水をよく飲む?体重が減る?愛犬の糖尿病サインを見逃さないで! – 大下動物病院
- 犬の糖尿病について|合併症を引き起こしやすい疾患 – 永原動物病院
- 犬の糖尿病はどんな症状?なりやすい犬種は? – ミネルバ動物病院
- 【犬の糖尿病】原因と治療について – KINS WITH 動物病院
- 犬の糖尿病とは? 症状や治療法について【獣医師監修】 – アニコム損保
- 犬の糖尿病について – ヒルズ
- 【犬猫】糖尿病のⅠ型&Ⅱ型とは – うたづ動物病院
- プロジンク – 動物用医薬品等データベース
- 犬の糖尿病(Diabetes Mellitus: DM)について – 木場パークサイド動物病院
- 犬の糖尿病とは?症状や治療方法も解説【獣医師監修】 – HugQ
- 犬の糖尿病治療の方法や流れは?|獣医師が徹底解説 – アニポス
- 糖尿病 – ロイヤルカナン食事療法食VETSヘルスステーション
- 糖尿病のイヌにおけるフード選び – アークレイ
- 糖尿病のペットのフード選び。治療成功の決め手は適切な食事管理! – withペティ
- 犬の糖尿病は余命が短い?原因や症状を徹底解説 2024年版 – スケアクロウ
- 犬 糖尿病 余命と寿命を延ばすための管理方法・合併症とケア解説 – PetsCare.com

