「老後は犬と暮らしたい」——そう思いながらも、体力や費用の不安から踏み出せずにいる60代・70代の方は多いはずです。子どもが独立して時間的な余裕が生まれたこのタイミングで、初めて犬を迎えるケースは年々増えています。
この記事では、高齢者が犬と暮らすことで得られる具体的なメリットと、迎える前に知っておくべき現実的なリスクを整理します。おすすめの犬種や一人暮らしに役立つアイテムも紹介するので、判断材料のひとつとしてお読みください。
60代・70代の犬の飼育事情

一般社団法人ペットフード協会の「令和6年全国犬猫飼育実態調査」によると、60代の犬の飼育率は10.1%、70代は8.4%。2世代を合わせると、シニア世帯の約2割が犬か猫と暮らしている計算になります。
| 年代 | 犬の飼育率 | 猫の飼育率 |
|---|---|---|
| 60代 | 10.1% | 10.1% |
| 70代 | 8.4% | 7.8% |
飼い始めた理由のトップは「日々の生活に癒やしや安らぎが欲しかったから」(60代54.8%、70代57.6%)。70代では「散歩を通じて運動量を増やしたい」という動機が2位(30.0%)に入るのが特徴で、健康維持を意識した上での選択であることが読み取れます。
実際に犬を迎えた飼い主の声として「生活が規則正しくなった」「散歩でも早寝早起きの習慣が身についた」(60代・チワワ)、「家族が犬を囲んで盛り上がるとき、迎えてよかったと思う」(70代・マルチーズ)といったエピソードが聞かれます(みんなのブリーダー掲載事例より)。
犬と暮らすことで得られる5つのこと
1. 認知症のリスクが4割低くなる

東京都健康長寿医療センターが2023年に発表した研究では、65歳以上の1万1194人を約4年間追跡した結果、犬を飼っている人の認知症発症リスクは飼っていない人の0.6倍であることが明らかになりました(国際誌「プリベンティブ・メディシン・リポーツ」掲載)。
注目すべきは、猫ではこの差がほとんど見られなかった点です(オッズ比0.98)。散歩による定期的な運動と、近所の人との会話など社会的な交流が、犬特有の効果を生み出していると研究グループは指摘しています。
東京都健康長寿医療センター・2023年調査データ
- 犬飼育者の認知症発症オッズ比:0.6(飼っていない人比で40%低い)
- 犬飼育+定期的な運動習慣がある人:オッズ比0.37(63%低い)
- 犬飼育+社会的孤立がない人:オッズ比0.41(59%低い)
2. 毎日の散歩が体力の下支えになる
ペットフード協会の調査で、犬の飼い主の39%が「飼い始めてから運動量が増えた」と回答しています。1回15〜30分の散歩を1日2回続けることは、週150分以上の中等度の身体活動に相当します。犬の飼い主はそうでない人と比べて、この活動量目標を達成する可能性が2.5倍高いというデータもあります。
「雨の日も愛犬が待っているから外に出る」——この小さな義務感が、体力低下を緩やかにする習慣として機能します。意識して運動しようとするよりも、犬の存在がそのきっかけを自然につくってくれます。
3. 帰宅すると出迎えてくれる存在がいる
一人暮らしの高齢者にとって、家に戻ったときに「待っていてくれる存在」がいることの精神的な意味は言葉で測りにくいものがあります。「心穏やかに過ごせる日が増えた」「気持ちが明るくなった」という声は、飼い始めた人のほぼ共通の感想です。
50歳以上の一人暮らしを対象にした研究(中山大学・Ciyong Lu教授)でも、ペットを飼っている人は言語の記憶力と流暢性の低下が遅いという結果が出ており、孤独感の軽減が認知機能の維持に関与していると考えられています。
4. 生活のリズムが崩れにくくなる
犬には毎日、決まった時間に食事と散歩が必要です。「絶対にやらなければならないこと」が日課としてある状態は、定年後に乱れがちな生活リズムを支えます。「早寝早起きになった」「毎朝のルーティンが生まれた」という声は、60代の新規飼育者から多く聞かれます。
5. 散歩が地域とのつながりをつくる
「この子、何歳ですか?」——犬を連れているだけで見知らぬ人から声をかけられる回数は明らかに増えます。この小さなやり取りの積み重ねが散歩仲間を生み、地域のつながりになっていきます。社会的な孤立が認知症のリスク因子とされている以上、「外に出ると誰かと話せる」という環境は、健康面でも価値ある変化です。
飼い始める前に知っておきたい4つのリスク

1. 毎日の世話には体力が要る
80代で柴犬と暮らしているある飼い主は「体調や天候によっては散歩を負担に感じるときがある。近くに住む家族に頼むこともある」と話しています(みんなのブリーダー掲載事例)。今の体力では問題なくても、5年後・10年後に同じペースで世話できるかどうかを冷静に想定してみることが、長く一緒にいるための前提になります。
迎える前に、散歩を代行できる家族の有無や、近隣のペットシッター・散歩代行サービスを調べておくと、いざというときの選択肢が変わります。
2. 飼育費は月平均1万4千円
| 費用の内訳 | 月額目安 |
|---|---|
| フード・おやつ | 3,000〜5,000円 |
| トリミング(月換算) | 2,000〜4,000円 |
| ペット保険料 | 2,000〜5,000円 |
| 動物病院(定期的なケア) | 1,000〜3,000円 |
| 合計の目安 | 月1万〜1万7千円程度 |
ペットフード協会の調査では犬の月平均支出は約1万4千円、平均寿命(14.6歳)の生涯を通じると約245万円になります。病気・ケガの治療費は別途かかるため、年金生活の中での費用計画に組み込んでおく数字です。特に高齢期の治療費は高くなる傾向があり、10歳以上のトイプードルの年間平均診療費は20万円超になるケースもあります(アニコム損保調べ)。
3. 「自分が先に倒れたとき」の段取りを決めておく
一人暮らしの場合、最も慎重に考えておきたいのがこのリスクです。入院・手術・要介護状態になったとき、愛犬の世話を誰に頼めるか——段取りのない人ほど、緊急時に選択肢がなくなります。
東京都が発行した「ペットと暮らすシニア世代の方へ」でも、一時預かりの受け皿を事前に確保しておくことを強く推奨しています。家族・友人・かかりつけの動物病院・ペットシッターと事前に相談しておく、または一時預かりの利用登録をしておくだけで、緊急時の動き方が変わります。
確認しておきたいこと
自分が入院した場合に短期で犬を預けられる先(家族・動物病院・ペットシッター)を、迎える前に少なくとも1か所は確保しておく。これが一人暮らしで犬を迎える際の最低限の準備です。
4. 犬も老いる「老老介護」の現実
60代で小型犬を迎えた場合、飼い主が70代半ばを迎える頃には犬も10歳を超えている計算になります。小・中型犬はおおよそ10歳前後からシニア期に入り、夜鳴き・排泄の失敗・歩行困難が出てくることがあります。
東京都の調査では、70代以上の一人暮らし世帯で飼われている犬の平均飼育年齢は10.7歳。飼い主自身の体力低下と犬の介護が重なる「老老介護」の状態は、現実の数字として珍しくありません。迎える犬種の平均寿命と、自分が何歳になっているかを並べて考えてから決める——それが長く一緒にいるための出発点になります。
高齢の飼い主でも飼いやすい犬種5選
体力的な負担を少なくするには、「小型」「抜け毛が少ない」「穏やかな性格」を軸に選ぶのが基本です。以下の5犬種は、シニア世代の飼い主から選ばれやすい犬種です。

| 犬種 | サイズ | 抜け毛 | 散歩の目安 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| トイプードル | 小型 | 少ない | 1日30分程度 | 知能が高くしつけやすい。室内で安定して過ごせる。定期トリミング要 |
| マルチーズ | 小型 | 少ない | 1日20〜30分 | 温厚で無駄吠えが少なく飼い主への甘え度が高い。シニア世代に人気 |
| チワワ | 超小型 | 少〜中 | 1日20〜30分 | 体が小さく室内での運動でも満足しやすい。抱っこがしやすい点も◎ |
| シーズー | 小型 | 少ない | 1日20〜30分 | 穏やかで環境への順応性が高い。マンション・集合住宅でも飼いやすい |
| キャバリア | 小〜中型 | 中程度 | 1日30〜40分 | 人懐っこく攻撃性が低い。家族全員に馴染みやすい性格 |
抜け毛が少ないトイプードルとマルチーズは、月1〜2回のトリミングが必要です。散歩の手間が少ない分、グルーミング費用として月2,000〜5,000円程度を予算に組み込んでおくと現実的な計画になります。
犬を迎える前に確認したい5つのこと
- 毎日の散歩(雨の日・体調不良の日も含む)を続けられる環境があるか
- 月1万〜1万5千円程度の費用を年金・貯蓄から無理なく出せるか
- 自分が入院・要介護状態になったときに愛犬を一時預けられる先があるか
- 同居家族がいる場合、全員の同意が取れているか
- 犬の平均寿命(14〜16年)に対して責任を持てるか、または後継の世話人を決めているか
一人暮らし・高齢者の飼育をサポートするアイテム2選
体力面や急な外出が難しい日でも愛犬のケアを続けるために、道具の力を借りることも選択肢のひとつです。
自動給餌器
外出が長引いたり体調が悪い日でも、設定した時間に自動でフードを出してくれます。1日の給餌量を管理できるため、肥満・逆流性胃炎の予防にも使えます。一人暮らしで「万が一のとき」に備える道具として、迎えてすぐ用意しておくと安心感が違います。
こんな方に:一人暮らし・外出が多い・体調によるムラを減らしたい方
参考価格:7,000〜20,000円程度
ペット保険(シニア犬対応)
7歳を超えると新規加入できる保険の種類が急激に減り、保険料も高くなります。アニコム損保「どうぶつ健保しにあ」は8歳以上から加入でき、年齢上限なしの入院・手術特化型保険です。ただし、若く健康なうちに加入するほど保険料は低くなるため、迎えてすぐの検討をおすすめします。
こんな方に:高齢期の入院・手術費に備えたい方・保険未加入の方
参考保険料:月2,000〜6,000円程度(年齢・犬種による)
参考文献
- 一般社団法人ペットフード協会「犬との暮らしで認知症の発症率が40%も低下する?!」
- サイエンスポータル「犬を飼う高齢者は認知症リスク4割低く 都健康長寿医療センターが1万人調査」(2023年12月)
- クラモア「シニア向けペットライフ|犬・猫を飼うメリット、費用、注意点とは?」
- みんなのブリーダー「定年後・60代で犬を飼う際に考えておきたいこと」
- 第一ライフ資産運用経済研究所「独居高齢者がペットと共に生活するということ」
- ヨガジャーナルオンライン「ひとり暮らし50歳以上の人はペットを飼うと認知症リスクが低下」
- 東京都保健医療局「ペットと暮らすシニア世代の方へ」
免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の医療行為・診断・治療の代替となるものではありません。愛犬の健康状態や疾患については、かかりつけの獣医師にご相談ください。
専門家への相談推奨:犬を迎えることを検討している場合は、獣医師・ブリーダー・動物保護施設などの専門家に事前相談することをおすすめします。
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